Metal Gear Solid

『その手に』

今はもう遠い昔、私は、血肉を分けた子供達をこの世に残すことが許されなくなった。

若かったあの頃、私は、この血肉の中に流れ続ける焦がれにも似た想いを、次の世へと伝える道も、受け継がせる道も、絶たれてしまった。

だから、随分と長い間、そんな私にそれでも残せるモノは、残される道は、と。

私はそればかりを考えて来たように思う。

──若かったあの頃より、残せるモノのない、次の世へと繋がる道の絶たれた私にとって、過ぎる歳月は、残酷な刻に等しかった。

けれど、歳月はそれでも平等だった。

こんな私にさえも。

残酷な、人類の歩みとも言える刻の流れは、私に、それでも残せるモノを与えてくれた。

絶たれた筈の、次の世へと繋がる一筋の道を、私の前にも見せてくれた。

────刻の流れが私の前に見せてくれた一筋の道。

それは、クローン技術。

それでも私に残せるモノ。

それは、私のコピー。

私は、私の血肉を分ける、という形ではなく、私のgeneを分け与えるという形で、残すこと許されなくなった『子供達』を得た。

私の『子供達』がこの世に生を受けたことの全て、私の意思によるものではなかった。

『子供達』は、私以外のモノの明確な意志で以て、この世に生まれて来た。

だが、それでも『子供達』が、私の子供であることには変わりない。

持つことなど許されなかった、私の『子供達』。

この血肉の中に流れ続ける焦がれにも似た想いを、受け継いでくれる者。

そして、更なる次の時代へと、又、それを受け継がせてくれる者。

…………その現実は。『子供達』を得られたとの現実は。

このような私にとっても、確かに喜びだった。

私の『子供達』。私の想いを、私の中に流れるモノを、確かに受け取ってくれる愛し子達。

故に、私は考え悩んだ。

『子供達』に、私の中の何を伝えるべきなのだろうかと。

……ヒトという生き物の惜しむべきことの一つは、その手が二本しかない、ということだ。

人の手は、右手が一つ、左手が一つ。

その事実が示す通り、人が持ち続けられるモノは限られている。

いいや、いっそ、少ない、と言った方がいい。

だから、子供達が産まれて直ぐさま、私は、私の中に在る何を、『子供達』の手に握らせてやるべきなのかを考え続けた。

そして、今も未だ、考え続けている。

そう簡単に答えを導き出せることではないと判ってはいたが、これ程に難しいとは思わなかったから……。

──欲を言っていいなら、私とて、私の中に在る全てを、『子供達』に伝えたいと思っている。

例えば、私の中に滾る、『段ボールへの愛』。

これは、是非とも『子供達』にも受け継がせたい。

……段ボール。あれはいい。

被れば敵の目を誤摩化すことも出来るし、軽いから、被ったまま移動するのも便利だし、動くと立ってしまうカサコソ音とて訓練次第で無音になるし、何より、あれを被っていると暖かい。

敵の目がなければ、広げた上に寝転がることも出来るし、毛布代わりにもなるし、なのにコンパクトに折り畳むことが出来る。

大抵の施設に無造作に転がっているから、収集が楽だという利点もあるし、種類も豊富だから、少しばかり辺りに積まれているそれと柄が違っていた処で誰も気にしない。

…………素晴らしい。

発展系として、便所の清掃用金バケツ、という物もあるが、やはり段ボールには敵わないだろう。

そんな、『段ボールへの愛』と共に、『サバイバルに於ける美味の追求』、これも是非とも『子供達』に受け継がせたい。

どの蛇が美味いとか、私は蛙よりも蛇が好きだとか、そういうことは、私の体験談と共に教え伝えてやりたいし、ツチノコも案外美味かったとか、私の中の『究極の美味』は、カロリーメイト・チーズ味とチキンラーメンだということも、徹底的に教え込みたい。

手を加えずとも美味しく食える、しかも腐らない! 素晴らしいカロリーメイトは言わずもがな、器に開け、熱湯を注いで三分待つだけでこの上もなく美味い、やはり腐らない! チキンラーメンを、ジャングルの奥地で一人啜った時のあの感動も、煮炊きの手間を掛けていられず、ままよと、スナック菓子のように齧ってみた時のあの独特の風味、それを伝えるのも私の使命のような気がする。

……だが。

潜入先で訳の判らぬ人形を見掛けたら取り敢えず撃っておくと何故かいいことがある、とか、人間様を馬鹿にする小賢しい猿は不倶戴天の敵だ、とか、ブルンブルン揺れるくらい乳のデカイ女に現を抜かすと碌なことにならない、とか、やたらとしつこい敵の相手を飽きずにしてやると、稀にラッキーなことが起こったりする、とか、数々の……本当に本当に数々の教えも、私は『子供達』に伝えたいのだ。

大切な、大切な私の使命として、私の愛しい『子供達』に。

──だから今日も、私は考え、悩み続ける。

もう遠くなってしまったあの日に絶たれた筈の、次の世代へ続く道を担う、得られるとは思ってもいなかった『子供達』の両手に、私の中に在る何を握らせてやるべきなのかを。

………………やはり、段ボールか?

End

後書きに代えて

そして、ソリッド・スネークへと受け継がれる、『段ボールへの異常な執着』。ふふ(笑)。

──ちゅー訳で、今回は馬鹿話@メタルギアシリーズ。

Big Bossも好きですよ。そりゃーもー、この上もなく愛してますけども!

Big Boss──3のスネークって、阿呆の子だと思うの(笑)。

エヴァちゃんの揺れる乳を凝視してたスネークの表情、私は絶対忘れないね!(笑)

──それでは皆様、宜しければご感想など、お待ちしております。